障害者差別解消法と図書館サービス
大事なのは合理的配慮だけじゃない
京都情報図書館学学習会 第227回 2015年9月25日
※この発表はあくまで個人的見解に基づく者であり、所属する組織の見解を示すものではありません。
1.障害者差別解消法とは
障害者差別解消法
- 正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
- 2013年(平成25年)6月に公布
- 2016年(平成28年)4月に施行予定
- 合理的配慮の提供などを義務づけ、障害者の権利の保障と実質的平等を確保することを目的として具体的な措置や義務を定めた法律
障害を理由とする差別
障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。 (障害者権利条約 第二条 定義 「障害に基づく差別」より)
背景
障害者権利条約批准のための法整備の一環として制定。
- 2006年12月 障害者権利条約が採択
- 2011年8月 障害者基本法の改正(公布・施行)
- 2012年6月 障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)の成立
- 2013年6月 障害者差別解消法の成立・障害者雇用促進法の改正
- 2014年1月 日本が障害者権利条約を批准
障害者差別解消法では?
「障害を理由とする差別」は以下のように区別して整理されている。
- 障害を理由とする不当な差別的取扱い
- 合理的配慮の不提供
障害者差別解消法における「障害者」
- 「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」(第二条)
- 障害者手帳保持者に限定されない
- 障害は社会的障壁と相対することで生じるものとするいわゆる「社会モデル」の考え方
医学モデルと社会モデル
- 医学モデル
- 機能障害(impairment)を障害(disability)の原因と見なす考え方
- 社会モデル
- 機能障害(impairment)と社会的障壁(つまり、その機能障害に社会が対応できていない状況)が相対する時に障害(disability)が発生するという考え方
具体的な措置が義務付けられている機関
障害者差別解消法が具体的な措置を義務づけている対象は以下の通り
- 行政機関等
- 国の行政機関
- 独立行政法人等
- 地方公共団体
- 地方独立行政法人
- 事業者(商業その他の事業を行う者)
障害者差別解消法における図書館の位置付け
- 公共図書館:「地方公共団体」
- 国立大学の大学図書館:「独立行政法人等」
- 公立大学の大学図書館:「地方独立行政法人」
- 私立大学の大学図書館:「事業者」
- 私立の図書館: 「事業者」
- 学校図書館: 運営主体による
2.障害者差別解消法の三本柱
障害者差別解消法の三本柱
義務/努力義務
(行政機関等) 公共図書館 国立大学図書館 公立大学図書館 | (事業者) 私立大学図書館 | |
---|---|---|
不当な差別的取扱いの禁止 | 義務 | 義務 |
環境の整備 | 努力義務 | 努力義務 |
合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務 |
2-1. 不当な差別的取扱いの禁止
- 障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止
- 障害者の実質的な平等を確保するための特別な対応は、不当な差別には当たらない
不当な差別的取扱いの具体例
- 身体障害者補助犬の同伴による利用を拒否する
- 同伴者が利用資格のないものであることを理由に同伴による入館や利用を拒否する
- 対応を後回しにすること、サービス提供時間や提供場所を限定する
- 保護者や介助者・支援者の同伴をサービスの利用条件とする
- 障害を理由にイベント参加を拒否する。または、介助者・支援者の同伴を参加の条件とする
2-2. 環境整備(事前的改善措置)
- 個々の障害者がその都度、合理的配慮を要求しなくてもすむように、不特定多数の障害者が利用しやすい環境をあらかじめ整備しておくこと
- ユニバーサルデザインの考えに基づいた環境整備
- 施設におけるバリアフリー化や情報の取得・利用・発信におけるアクセシビリティ向上などの他、職員に対する研修などソフト面の対応も含まれる
- 合理的配慮を必要とする場面が多数存在しうる場合は、その都度、合理的配慮を提供して対応するのではなく、環境を改善して、根本から解決していくことが重要
環境整備(事前的改善措置)の具体例
- 施設のバリアフリー化
- 研修等による人材育成
- ウェブサイトのウェブアクセシビリティの改善
- 法規等の整備
- サービス設計・制度設計・組織体制
2-3. 合理的配慮の提供
- 障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、過度の負担が生じない範囲内で障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、それに応える個別具体的な対応
- 合理的配慮の不提供は「障害を理由とする差別」に該当し、障害者の権利利益を侵害することになる
留意事項
- 事務・事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
- 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
- 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと
より詳しく
- 配慮を提供する側の状況と、配慮を求める障害者の障害の状況によって異なるので、個別具体的に判断する必要がある
- 意思の表明が困難な障害者が、家族、介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合も対応することが望まれる
- 過度の負担にあたると判断される場合は、その理由を障害者に説明し、代わりにどのような対応が可能であるかということを障害者と相談しながら考えていくことが望まれる
過度な負担とは
個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要
- 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模財政・財務状況
建設的対話
障害者と合理的配慮を提供する立場のものは対立する関係ではなく、望ましい配慮は何かを障害者が示し、それを合理的配慮の提供する側が誠実に対応して、障害者が抱える本質的な困難に対して最終的に合理的な対応を一緒に検討していく。
合理的配慮の具体例
- 配架棚の高い所に置かれた図書やパンフレット等を取って渡したり、図書やパンフレット等の位置を分かりやすく伝えたりする
- 点字ブロックがない箇所について移動介助を行う
- 職員が必要書類の代筆を行う
- 使いやすい座席する(入り口に近い席や司書に相談しやすい位置の席、音を立てても問題にならない席など)
- 筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字、平易な言葉など多様なコミュニケーション手段や分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮を行う
- 研修会、イベント等を開催するときに情報保障として事前に配付資料のテキストデータを提供する
2-4. 三本柱のまとめ
- 障害を理由とする不当な差別的取扱いはやってはだめというのは民間も公的機関も義務付けらている大前提というべきもの
- その上で、環境の整備(事前的改善措置)を基礎とし、それで対応できないところを合理的配慮の提供で補うという考え
- 合理的配慮だけでなく、環境の整備(事前的改善措置)とセットで考えるべき
もう少し言わせて
- 「合理的配慮」=「運用で対応できる対応」ということで、運用で対応できる範囲で限定的に対応すればよいということでは当然ない
- 対応できない範囲は根本的な解決が必要ということ。環境の整備(事前的改善措置)によって中長期的にでも根本的に解決していくことが求められる
もう一言
合理的配慮ばかりに注目されていますが・・・・
不当な差別的取扱いは来年度から禁止!
なので、今から該当する事項がないかは洗い出しておくべし(内規の整備等が必要だったら時間かかりますよ)
参照すべきドキュメント
- 障害者権利条約
- 障害者基本法
- 障害者差別解消法
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(閣議決定)
- 行政機関等(独立行政法人含む)で作成された対応要領もしくは所管する民間事業者向けに各省庁が出す予定の対応指針
3.障害者差別解消法と図書館サービス
図書館サービスに集約すると
障害者差別解消法は、
- 障害者が保持する図書館を利用する権利権益を侵害しないように
- 図書館の利用において、障害を理由とした不当な差別的取扱いをなくし
- 必要な環境の整備やそれに基づいた合理的配慮の提供によって、図書館の利用における社会的障壁を除去すること
を図書館に求めている
図書館サービスにおける「障害者」
障害者差別解消法 第二条の定義にある「障害者」を図書館利用に当てはめると以下のようになる
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に図書館の利用に相当な制限を受ける状態にあるもの
図書館の使命
「すべての人」に
「すべての資料とサービス」
を提供する
図書館における障害者サービス
図書館利用に障害がある人へのサービス
- 「すべての人にすべての資料とサービスを提供する」という図書館の使命に基づいたサービス
- 対象は「図書館利用に障害がある人」(「障害者」に限定されない)
図書館利用上の障害
図書館利用上の障害 = 社会的障壁
では・・
図書館の利用に障害のある人?
図書館の利用上の障害
- 資料を読めない
- 図書館に来られない
- 図書館司書とコミュニケーションが取れない
- 図書館が使いづらい
- そもそも図書館を知らない
読めない理由(例)
- 視覚障害
- 学習障害
- 知的障害
- ページがめくれない
- 紙面が眩しくて字が読めない
- 姿勢を長時間維持できない
- 外国語を母国語としている
行くことができない理由(例)
- 視覚障害、肢体不自由、内部障害などにより図書館に行くことが困難である
- 病気・事故等による入院、高齢者施設・矯正施設に入所など
- 図書館に行くために利用できる交通手段がない
コミュニケーション上の問題(例)
- 聴覚障害
- 外国語を母国語に持つ
- 言語障害
- 知的障害
- 精神障害
- 自閉症
- 司書に相談しづらい図書館の雰囲気
図書館が使いづらい理由(例)
- 入口に段差がある
- 書架と書架の間が狭くて車イスでは通れない
- 書架に手が届かない
- 検索端末がタッチパネルである
- パソコン操作しないと資料を検索できない
- 書架のレイアウトが複雑である
- 手続きが複雑で、司書に聞かないとよくわからない
- 図書館のホームページがアクセシビリティ上問題があり、利用しづらい
図書館を知らない理由(例)
- 図書館でどのようなサービスが提供されているのかを知らない
- 図書館とそもそも接点がない
- ほしい資料が所蔵しているのかどうかを知らない
それぞれの対象範囲
図書館の障害者サービスが対象する人(図書館利用に障害がある人)は、障害者差別解消法の「障害者」よりも広い
しかし・・
図書館利用における社会的障壁の除去を目的とする点では、障害者差別解消法が求めていることは、図書館における障害者サービスが目的としていることは同じである
さいごに
- 障害者差別解消法は、全ての局面において障害を理由とする差別の解消を求めている(障害者サービス担当者に任せておけばよいというものではない)
- 図書館は本来、全職員が全窓口で障害者を含む全ての利用者を対応することが求められる(障害者だからという理由で、レファレンスをレファレンス担当ではなく、障害者サービス担当が行うというのでは、図書館の本来の力量を発揮できない)
大事なのは・・・
障害者を含む一人一人の利用者が抱える図書館利用上の困難を図書館がどう取り除くか、ということ
考えてみませんか
障害者差別解消法の施行が迫るこの時期に、図書館本来の使命と障害者サービスのあり方を考えてみませんか
ご静聴ありがとうございました。
余談
以下のケースはどう考える?